東京高等裁判所 平成10年(行ケ)103号 判決 1998年11月26日
京都府京都市西京区嵐山東一川町12番地の1
原告
株式会社錦味
代表者代表取締役
梅本進
訴訟代理人弁理士
石田定次
同
石田俊男
東京都千代田区大手町1丁目6番1号
被告
協和醗酵工業株式会社
代表者代表取締役
平田正
訴訟代理人弁護士
品川澄雄
同弁理士
岸田正行
同
新部興治
同
水野勝文
同
小花弘路
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成7年審判第16182号事件について平成10年2月13日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)に定める商品区分第31類(以下「旧第31類」と表示し、他の類にものについても同様に表示する。)「しょうゆ、食酢、ウースターソース、ケチャップ、マヨネーズソース、ドレッシング、酢の素、ホワイトソース、焼肉のたれ、めんつゆ、つゆの素、天つゆ、化学調味料、食用油脂、乳製品」とし、「錦味」の文字を横書きしてなる登録第2649225号商標(昭和63年3月17日出願、平成2年2月13日出願公告、平成6年4月28日登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、平成7年7月28日、本件商標につき、商標法4条1項11号の規定に違反することを理由とする商標登録無効審判を請求した。
特許庁は、同請求を平成7年審判第16182号事件として審理した結果、平成10年2月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月12日原告に送達された。
2 審決の理由
審決の理由は、別紙審決書写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり(ただし、2頁19行、20行の「本類に属する商品」は「本類に属する加味品」の、7頁9行の「3.」は「4.」の、10頁13行の「4.」は「5.」のそれぞれ誤記であることは、当事者間に争いがない。)、本件商標と引用各商標(審決書別紙(1)及び(2)参照)とは、その外観、称呼及び観念上のいずれの点においても互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法4条1項11号に違反して登録されたものではなく、同46条1項の規定により登録を無効とすることはできないと判断した。
3 審決の取消事由
審決の理由1(本件商標。審決書2頁2行ないし9行)、同2(引用商標。同2頁10行ないし3頁6行)、同3(請求人の主張。同3頁7行ないし7頁8行)、同4(被請求人の主張。同7頁9行ないし10頁12行)は認め、同5(特許庁の判断。同10頁13行ないし12頁12行)は争う。
審決は、本件商標「錦味」中の「味」が品質を表示するものとして理解され、自他商品の識別標識としての機能を有しないものであるのに、この点の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
(取消事由)
審決は、「(本件商標の)構成中「味」の文字は、「薄味、塩味」等の如く他の文字と結合してはじめて飲食物に対する特定の舌の感覚を表す語となるものであって、この「味」の1文字を以て商品「調味料」の品質を表示する語として一般に使用されている事実は認められない」(審決書11頁2行ないし6行)、「本件商標は、特定の意味合いを有しない一種の造語であり、他にこれを「錦」と「味」の両部分に分断しなければならないとする特別な理由も見出し得ないものであるから、本件商標からは「ニシキアジ」の一連の称呼のみを生ずるものというのが相当である」(同11頁8行ないし13行)と判断するが、誤りである。
(1)<1> 味の文字は、指定商品を食料品とするものとの関係において、例えば、塩味、薄味などのように、味覚あるいは味わいの特徴を強調する意味の語であって、広く一般食品全般にわたって、その味覚(品質)の良さあるいは味覚の特徴などを表すものとして普通に使用されているものである。
<2> 現代漢語例解辞典(甲第35号証)には、「味」が「あじわう」、「おいしい」の意味を有し、角川必携漢和辞典(甲第37号証)には、「味」が「あじわい」、「うまさ」等の意味を有し、新版漢語林(甲第6号証)には、「味」が「あじわい」等の意味を有することがそれぞれ記載されている。
<3> そして、食品業界の実情としても、「味」の文字は、他の文字の語尾、語頭に付して、その特徴を強調するための語として認識され、商品の品質を表示するものとして好んで採択、使用されているものである。
<4> 本件商標においては、「錦」と「味」を「錦味」と一連に表したとしても、「錦」と「味」との間には観念上における結びつきは極めて薄いので、「錦」と「味」とがそれぞれ有する意味とは異なる意味を有する一語を形成するに至っておらず、自他商品を識別する標識としての機能を果たす部分は、「錦」の文字に存するものである。
<5> したがって、「味」が味わいが品質の重要な要素となる調味料に使用された場合、この種商品の品質を表示するものとして理解され、把握されるにとどまり、自他商品の識別標識としての機能を果たす文字とは認識し得ないものである。
(2)<1>(a) 指定商品を旧第31類「砂糖、氷砂糖、角砂糖、ぶどう糖、果糖、はち蜜、乳糖、麦芽糖、水あめ、人工甘味料、粉末あめ」とし、「錦」との構成を有する登録第1307138号商標(甲第9号証の1、2)と、指定商品を上記甲第9号証の1、2の商標と同じくし、「錦味」との構成を有する登録第1378886号商標(甲第10号証の1、2)とは、連合商標として登録されていた。
そして、引用商標A及びBの指定商品は、それぞれ旧商標法施行規則(大正10年農商務省令第36号)15条の規定による商品類別第41類「醤油」、第45類「味噌、漬物、其の他本類に属する加味品」であり、上記旧第31類の調味料の概念に包含されるものであり、本件商標の指定商品中、「しょうゆ、食酢、ウースターソース、ケチャップ、マヨネーズソース、ドレッシング、酢の素、ホワイトソース、焼肉のたれ、めんつゆ、つゆの素、天つゆ、化学調味料」も、旧第31類の調味料の概念に属する商品である。
(b) さらに、次の商標が連合商標として登録されていた。
指定商品を旧商標法施行規則(大正10年農商務省令第36号)15条の規定による商品類別第45類とし、「錦」との構成を有する登録第556202号の2商標(甲第5号証)、
指定商品を旧第32類とし、「錦」との構成を有する第1230401号商標(甲第11号証の1、2)、
指定商品を旧第32類とし、「にしき」との構成を有する登録第1230403号商標(甲第12号証の1、2)、
指定商品を旧第32類とし、「錦味」との構成を有する登録1230407号商標(甲第13号証の1、2)、
指定商品を旧第32類とし、「錦の味」との構成を有する登録1208597号商標(甲第14号証の1、2)、
指定商品を旧第32類とし、「味錦」との構成を有する登録1506881号商標(甲第15号証の1、2)
(c) そうすると、一方で、「錦」と「錦味」とを類似すると判断し、連合商標として登録しながら、本件において、本件商標(「錦味」)と引用商標A及びB(「錦」)とを非類似と判断することは、類否の判断を誤るものである。
<2> 過去の審査例、審判例においても、旧第31類において、商標「錦味」の「味」の部分は単に指定商品の品質表示をするにとどまり、自他商品の識別機能を果たす部分は「錦」の文字部分にあると判断され(甲第17号証)、他にも多くの同種審査例、審判例がある(甲第16、第18ないし第34号証)。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1、2は認め、同3は争う。審決の認定、判断は正当であり、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1)<1> 本件商標は、「錦味」の文字を、同書、同大で外観上一体に書いた構成よりなるもので、生じる称呼を全体でもって称呼しても、よどみなく「ニシキアジ」と称呼し得るものであって、格別冗長というものではないから、原告の主張するように「味」の部分を除いて「錦」の部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の理由はない。
<2> 「味」は、元来、食物が舌に触れた時の感覚を指す語であるから、「醤油味」、「味噌味」、「薄味」、「濃い味」のように用いられ、「味」の語を付さない「醤油」、「味噌」、「薄い」、「濃い」等の語とは別異の意味を生じ、決して自他商品の識別機能に関与しない部分ではない。「切れ味」、「書き味」等の場合も同様である。したがって、「味」の部分は文字商標において要部を形成しないとするのは誤りである。
一方、「錦」は、もともと、数種の色糸で地組織と文様を織りなした織物を指す語であったが、その織物が美しいことから、美しく、麗しいものを例えていう語としても使われるに至った。本件商標「錦味」は、特定の意味合いを有しない一種の造語であるが、上記のように、「錦」にも「味」にも特定の意味があるのであるから、「錦味」を「錦」と「味」とに分断した上で、要部は「錦」であるとする特段の理由はない。
<3> 「味」の文字が用いられた文字商標は、大別すると、「○○の味」というように「味」の文字を「の」でつないだ文字商標、「味○○」というように「味」の文字が冒頭に用いられた文字商標、本件商標のように「○○味」というように「味」の部分を後に付けた文字商標の3種に分類される。この3種の用法の中で、「○○味」という本件商標のような用法の場合が、最も「○○」の語と「味」の語との結合が強いため分別し難く、したがって、「味」の部分を除いた「○○」の部分にのみ要部があるといい得ないことは明らかである。
(2) 原告指摘の登録第1307138号商標と登録第1378886号商標とが連合商標として登録される以前に、登録第556202号の1商標(「錦」)と登録第803767号商標(「錦味」)とが非類似の商標として登録されている(乙第1、第2号証)。他にも、「旭」と「旭味」(乙第3、第4号証)等が非類似の商標として登録されている(乙第6ないし第30号証参照)。
以上の特許庁における商標登録の実務からすれば、審決は、多数の先例の流れを踏襲したものであり、原告指摘の登録第1307138号商標と登録第1378886号商標とが連合商標として登録されていることの方がむしろ審査例、審判例の主流とは矛盾する異例の見解に立つものである。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(審決の理由の記載)は、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由2(引用各商標)は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。
(1)<1> 弁論の全趣旨によれば、「錦」の文字は、「金銀糸や種々の絵緯を用いて、華麗な文様を織り出した紋織物」の総称であり、「彩りや模様などが美しいもの」を意味する場合もあることが認められる。
また、「味」の文字は、甲第35号証によれば、「現代漢語例解辞典」(株式会社小学館発行)では、「<1>あじ。あじわい。舌で感じるあじ。「味覚」「酸味」「調味」・・・<3>あじわう。おいしい。・・・」と説明され、甲第37号証によれば、「角川 必携漢和辞典」では、「<1>あじわう(・・・)。たべもののあじをみる。・・・「賞味」・・・<2>あじ(・・・)。あじわい(・・・)。うまさ。・・・」と説明され、甲第6号証によれば、「新版漢語林」(株式会社大修館書店発行)では、「<1>あじ・・・。あじわい・・・。ア甘い・辛い・苦い・すっぱい(・・・)・しおからい(・・・)など、舌の受ける感覚。「風味」「五味」・・・<2>あじわう・・・。」と説明されていることが認められる。
<2> 上記認定の「味」の有する意味によれば、「味」が「味のよい、おいしい」との意味も有していることが認められるが、ある言葉の中で使用されている「味」がどのような意味を有しているかは、各言葉ごとに判断する必要があるところ、本件商標の構成「錦味」においては、「味」が語頭に使用されている等の事情はないから、「味」は、それ自体から「味のよい、おいしい」との意味を持つものと認識されるというより、むしろ「塩味」、「薄味」等のように、「錦」の文字と結合して舌の受ける感覚である「あじ、味わい」を意味しているものと認識されるものと認められる。
そして、上記認定の「錦」の文字の意味から「華麗なもの、美しいもの」というイメージも生じ、これと「味」とが結びついて、「錦味」という文字から「華麗な味」あるいは「美しい味わい(美味)」というような意味を感得することができるのであり、両文字を分離して考察し「錦」の文字のみに識別機能があるとみることはできない。
そうすると、本件商標の「錦味」は、一種の造語ではあるが、「華麗な味」あるいは「美しい味わい(美味)」というような観念を生じ、称呼についても、「錦」と「味」の部分に分断しなければならないとする理由も他にないから、「ニシキアジ」との一連の称呼のみを生ずると認められる。
<3> これに対し、前記説示の構成を有する引用商標Aからは、「イリヤマニシキ」又は「ニシキ」の称呼、紋章の一つ「入山錦」の観念が生じ、また、引用商標Bからは、「ニシキ」の称呼、「金銀糸や種々の絵緯を用いて、華麗な文様を織り出した紋織物」の観念を生ずるものと認められる。
<4> したがって、本件商標と引用各商標とは、称呼においても、観念においても、互いに相紛れるおそれのないものと認められる。
<5> 原告は、味が品質の重要な要素となる食品業界では、「味」の文字は、この種商品の品質を表示するものとして理解されるにとどまり、「錦」と「味」との間に観念上の結びつきは極めて薄いから、識別機能を果たす部分は「錦」の文字にある旨主張するが、前記説示のとおり、「味」の文字が食品の品質を表示するものとして理解されるか否かは、「味」の位置、組み合わされる文字等により異なるものであり、個別の言葉ごとに判断されるべきところ、本件商標の「錦味」では「味」が単に食品の品質を表示するものとして使用されていると認めることはできず、両文字が結びついてある種の観念を生じさせるものであるから、原告の上記主張は理由がない。
さらに、原告は、審査例、審判例に基づき、審決の判断は誤りである旨主張するが、過去にされた審判例等は具体的、個別的な判断が示されているものであって、必ずしも確立された統一的な基準によっているものとはいえず、仮にその中に矛盾や誤りがあるとしても、具体的事案の判断においては、過去の審判例等の一部の判断に拘束ざれることなく検討されるべきものであるから、原告のこの点の主張も理由がない。
(2) なお、外観の点についても、前記説示の本件商標の態様、及び引用各商標の態様によれば、本件商標と引用各商標とは、その構成態様を異にし、外観上においては彼此相紛れるおそれのないものと認められる。
(3) 以上によれば、「本件商標と引用各商標とは、その外観、称呼及び観念上のいずれの点においても互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではな(い)」との審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。
3 よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年10月13日口頭弁論終結)。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
平成7年審判第16182号
審決
京都府京都市西京区嵐山東一川町12番地の1
請求人 株式会社 錦味
大阪府大阪市中央区和泉町1丁目3番14号
代理人弁理士 石田定次
大阪府大阪市中央区和泉町1丁目3番14号 石田定次特許事務所
代理人弁理士 石田俊男
東京都千代田区大手町1丁目6番1号
被請求人 協和醗酵工業株式会社
東京都千代田区丸の内2丁目6番2号 丸の内八重洲ビル424号輝特許事務所
代理人弁理士 岸田正行
東京都千代田区丸の内2丁目6番2号 丸の内八重洲ビル424号輝特許事務所
代理人弁理士 本多小平
東京都千代田区丸の内2丁目6番2号 丸の内八重洲ビル424号輝特許事務所
代理人弁理士 新部興治
東京都千代田区丸の内2丁目6番2号 丸の内八重洲ビル424号輝特許事務所
代理人弁理士 水野勝文
上記当事者間の登録第2649225号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
1.本件登録第2649225号商標(以下、「本件商標」という。)は、「錦味」の文字を横書きしてなり、第31類「しょうゆ、食酢、ウースターソース、ケチャップ、マヨネーズソース、ドレッシング、酢の素、ホワイトソース、焼肉のたれ、めんつゆ、つゆの素、天つゆ、化学調味料、食用油脂、乳製品」を指定商品として、昭和63年3月17日登録出願、平成6年4月28日に設定登録がなされたものである。
2.請求人が、本件商標の無効の理由に引用する登録第422167号商標(以下、「引用商標A」という。)は、別紙(1)に表示したとおりの構成よりなり、第41類「醤油」を指定商品として、昭和27年1月7日登録出願、同28年3月10日に設定登録され、その後、同48年12月3日、同58年2月22日及び平成5年5月28日の三回に亘り商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。同じく登録第556202号の1商標(以下、「引用商標B」という。)は、別紙(2)に表示したとおりの構成よりなり、第45類「味噌、漬物、其の他本類に属する商品」を指定商品として、昭和33年11月6日登録出願、同35年9月28日に設定登録されたものであるが、その後、上記指定商品より「蔬菜類の漬物、魚獣肉及び魚介類の味噌漬、粕漬、塩漬、ハム、ベーコン、ソーセージ、コンビーフ、田麩、蒲鉾、竹輪、はんぺん、佃煮(煮物を含む)、塩辛、うに、このわた、ジャム、甘酒、スープ、獣鳥肉、魚介類、蔬菜の揚物及味付焼、蔬菜、果物、きのこ類の味付、水煮の缶詰及之等の類似商品」について分割移転され、さらにその後、昭和55年10月24日及び平成2年9月20日の二回に亘り商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
3.請求人は、「本件商標の登録は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由をつぎのように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至甲第20号証(枝番を含む。)を提出している。
(1)本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、同法第46条第1項の規定により、無効にすべきものである。
(2)そこで、本件商標と引用商標Aに係る商標及び商品の類似関係を検討する。
<1>まず商標について。
本件商標は、その構成文字中「味」が、その指定商品の品質を表示又は誇示するものであることから要部は「錦」にあり、したがって、商標全体として「ニシキアジ」の一連の称呼を生ずるのみならず、単に「ニシキ」の称呼をも生ずるものである。
また、本件商標の要部が前記したように「錦」にあることにより、「錦」は、「いろいろの色糸や金銀の糸を横糸に使い、きれいな模様を織り出した、厚い高価な織物。」又は「色彩、模様などのきれいなもの。」の観念を有すること明白であるから、商標全体として「錦」と同様の観念を有するものである。
一方、引用商標Aに係る商標は、前記したとおりであり、要部は「錦」にあり、前記と同一の観念を有するものである。
したがって、「ニシキアジ」又は「ニシキ」の称呼が生じる本件商標と「ニシキ」又は「イリヤマニシキ」の称呼を生ずる引用商標Aは、称呼及び観念において同一若しくは類似の商標である。
なお、「錦」と「錦味」が類似することは、登録第1307138号商標(甲第3号証の1及び2)と登録第1378886号商標(甲第4号証の1及び2)とが連合商標として登録されていること、及び商標登録無効審判(昭和43年審判第7450号、甲第5号証)において、商標「味錦」と「錦」とは称呼、観念が同一であると判断されていることからも明白である。
そして、本件商標より「ニシキアジ」の一連の称呼を生ずるのみならず、単に「ニシキ」の称呼をも生ずるものであることは、原審における登録異議の申立てについての決定(甲第6号証)に記述されていることからも明白である。
<2>つぎに商品について。
本件商標の指定商品中「しょうゆ、食酢、ウースターソース、ケチャップ、マヨネーズソース、ドレッシング、酢の素、ホワイトソース、焼肉のたれ、めんつゆ、つゆの素、天つゆ」は、引用商標Aの指定商品「醤油」と同一又は類似の商品である。
したがって、本件商標の使用される指定商品と引用商標Aに係る商標に使用される指定商品とは明らかに類似する。
(3)つぎに、本件商標及び商品と引用商標Bに係る商標及び商品の類似関係について検討する。
<1>商標について。
本件商標は前記したとおりであり、「ニシキアジ」の一連の称呼を生ずるのみならず、単に「ニシキ」の称呼をも生ずるものであり、前記「錦」と同様の観念を有するものである。
一方、引用商標Bは、前記したとおりであり、本件商標と同一の観念を有するものである。
したがって、「ニシキアジ」又は「ニシキ」の称呼が生じる本件商標と「ニシキ」の称呼を生ずる引用商標Bは、称呼及び観念において同一若しくは類似のものである。
<2>商品について。
本件商標の指定商品中には「化学調味料」が含まれているが、引用商標Bの指定商品中に「化学調味料」が含まれている。
したがって、本件商標の使用される指定商品「化学調味料」については、引用商標Bの使用される指定商品と同一である。
(4)以上のように、本件商標は、その指定商品中「しょうゆ、食酢、ウースターソース、ケチャップ、マヨネーズソース、ドレッシング、酢の素、ホワイトソース、焼肉のたれ、めんつゆ、つゆの素、天つゆ、化学調味料」について、本件商標の登録出願の日前に登録出願され、登録になった引用商標A及びBと類似する商標であって、その指定商品も同一又は類似するものである。
(5)弁駁の理由
<1>「味」の文字は、指定商品との関係において、たとえば塩味、薄味等のように味覚或いは味わいの特徴を強調する意味の語であって、広く一般食品全般にわたって、その味覚(品質)の良さ或いは味覚の特徴などを表すものとして普通に使用されているものである。
味わいが品質の重要な要素となる「調味料等の指定商品」に使用した場合、この種商品の品質を表示するものとして理解され、把握されるに止まり、自他商品の識別標識としての機能を果たす文字とは認識し得ないものである。
そして「味」の文字は、食品関係の業界においては他の文字の語尾、語頭に付して、その味覚の特徴を強調するための語として認議され、商品の品質を表示するものとして一般に使用され、好んで採択使用されているのが実情である。
<2>「錦」と「味」の文字は、「錦味」と一連に表したとしても、これが「錦」及び「味」それぞれが有する意味とは異なる意味を有する一語を形成するに至っていない。
すなわち、「錦」と「味」の両者の間には観念上における結びつきは極めて薄いので、「味」は本件商標の要部にはたり得ず、自他商品の識別する標識としての機能を果たす部分は「錦」の文字に存する。
被請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と答弁し、証拠方法として乙第1号証乃至乙第44号証を提出している。
(1)請求人が、本件商標から「ニシキ」の称呼及び「錦」の観念を生じると主張する理由は、つぎの二点にある。
第一に、本件商標は、「味」が指定商品の品質を表示又は誇示するから、その要部は「錦」にあるということである。その根拠として審決(甲第5号証)を挙げている。
しかし、「味」の文字は、「飲食物が舌の味覚神経に触れた時おこる感覚、『うすい-』、『塩-』」(乙第1号証)の意味を有するものであり、同文字単独で「味の良い」、「うまい」の意味を有するものではない。
そして、「味」が他の語に付されて使用される場合も、例えば、「味噌味」、「醤油味」、「うす味」等の如く飲食物に対する舌の感覚を表す語として使用されるもので、決して「味がよい」、「うまい」といったことを表現するために使用されるものではない。
また、取引上においても「味」の文字が、他の語に冠し、又は付して使用される場合、例えば上記の「味噌味」、「醤油味」についてみても、これらを「味噌」、「醤油」と「味」の各部に分離し、「味」の部分のみが品質表示であると考えるものは皆無であろう。同様に「味一番」、「味自慢」といった商標にしても、これらが品質表示的であると認識されるのは、「味」の部分のみが分離されるからではなく、全体から生じる意味が品質を表示するものと理解されるからに他ならない。
したがって、「味の文字は、『味の良い』こと、『うまい』こと等商品の品質を表示又は誇示するために、他の語に冠し又は付して普通に使用されていることは顕著な事実である」と認定し、それ故に同文字を識別力の弱いものとして分離し、これに付された他の語を要部と判断することは過りであるといわざるを得ない。
第二に、請求人は、本件商標から「ニシキ」「錦」の称呼、観念を生じる根拠として異議決定(甲第6号証)を挙げている。
しかしこの異議決定も、その理由を見れば明らかなように、甲第5号証と全く同じく「錦」を要部とする過った判断に基づいてなされたものであるから失当なものといわざるを得ない。
(2)つぎに、請求人は、「錦」(甲第3号証)と「錦味」(甲第4号証)が連合商標として登録されていることを以って、本件商標が引用商標A及びBに類似すると主張するものである。
しかしながら、第一に、本件商標と引用商標A及びBを対比した場合、本件商標は、同書体、同大の活字で「錦味」と横書きしてなり、登録第803767号商標の連合商標として登録されたものであるが、その外観上漢字「錦味」の一連の構成から、これを「錦」と「味」に分離しなければならない理由はなく、また同文字から生じる称呼「ニシキアジ」若しくは「キンミ」も冗長なものではなく、極めて自然に生じる称呼である。さらに「錦」の文字は、「金銀糸や種々の絵緯を用いて華麗な模様を織り出した紋織物の総称、紋様の美しいものを例えて言う語」(乙第2号証)の意味を有する語であるが、これに「味」を組み合わせた「錦味」からは、「色々な素材を混ぜ合わせて創った多彩な味、錦のような多彩な味」といった意味を連想させるものである。すなわち、「錦味」の「錦」は、「味」を形容する語であって、「味」の文字と分離して独自に称呼、観念されるものではなく、「味」の文字と一体となって「ニシキアジ」若しくは「キンミ」と称呼され、上記のような意味合いを有する一つの造語と認識されるものである。
一方、引用商標A及びBからは、「錦」の文字から「ニシキ」の称呼、並びに「金銀糸や種々の絵緯を用いて華麗な模様を織り出した紋織物の総称、紋様の美しいものを例えて言う語」の観念を生じるものである。
上記の構成を有する本件商標からは「ニシキアジ」若しくは「キンミ」の称呼を生じるのに対し、引用各商標からは「ニシキ」の称呼を生じるものであるから、両者は「アジ」の2音の有無の相違により明瞭に区別されるものである(なお、「キンミ」と「ニシキ」とは全く類似するところはない。)。
また、本件商標と引用各商標からはそれぞれ上記のような観念を生じるものであるから、両者は観念上も非類似のものである。
4.そこで、本件商標と引用商標A及びBとの類否について判断するに、本件商標は、前記したとおり「錦味」の文字を普通に用いられる態様で表してなるのに対し、引用商標A及びBは、それぞれ別紙(1)及び(2)に表示したとおりの構成よりなるものであるから、本件商標と引用各商標とは、その構成態様を著しく異にし、外観上においては彼此相紛れるおそれのないものである。
つぎに、これを称呼及び観念上についてみるに、本件商標は、「錦味」の文字よりなるところ、該構成中「錦」の文字は、「金銀糸や種々の絵緯を用いて、華麗な文様を織り出した紋織物」の総称であり、また、「味」の文字は、「飲食物が、舌の味覚神経に触れた時おこる感覚。体験によって知った感じ。」等の意味を有する語として広く知られていることは認められる。
しかしながら、該構成中「味」の文字は、「薄味、塩味」等の如く他の文字と結合してはじめて飲食物に対する特定の舌の感覚を表す語となるものであって、この「味」の1文字を以て商品「調味料」の品質を表示する語として一般に使用されている事実は認められないものである。
以上のことからして、本件商標は、特定の意味合いを有しない一種の造語であり、他にこれを「錦」と「味」の両部分に分断しなければならないとする特別な理由も見出し得ないものであるから、本件商標からは「ニシキアジ」の一連の称呼のみを生ずるものというのが相当である。
他方、引用商標Aは、別紙(1)に表示したとおりの構成よりなるところ、これは紋章の一つと認められるものであり、これからは「イリヤマニシキ」又は「ニシキ」の称呼、紋章の一つ「入山錦」の観念が生ずるものであり、また、引用商標Bからは、その構成文字に照応して「ニシキ」の称呼、「金銀系や種々の絵緯を用いて、華麗な文様を織り出した紋織物」の観念を生ずるものというのが相当である。
そうとすれば、本件商標より生ずる「ニシキアジ」の称呼と引用各商標より生ずる「イリヤマニシキ」又は「ニシキ」の称呼とは、その音構成を全く異にするものであるから、本件商標と引用各商標とは、称呼上においても互いに相紛れるおそれのないものといわなければならない。
また、本件商標は、特別な観念を生じない造語であるのに対し、引用各商標からは前述したとおりの観念が生ずるものであるから、本件商標と引用各商標とは比較することができない。
したがって、本件商標と引用各商標とは、その外観、称呼及び観念上のいずれの点においても互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではなく、同第46条第1項の規定により登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
平成10年2月13日
審判長 特許庁審判官
特許庁審判官
特許庁審判官
別紙
(1) 引用商標A(登録第422167号商標)
(2) 引用商標B(登録第556202号の1商標)
<省略>